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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1235号 判決 1984年4月17日

控訴人(原告) 宮本佑二 外一名

被控訴人(被告) 東京税関労働組合

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人ら(控訴の趣旨)

1  原判決を取消す。

2  控訴人らが被控訴人の組合員たる地位を有することを確認する。

3  被控訴人は控訴人らそれぞれに対し、一〇万円及びこれに対する昭和四九年一月一二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人(控訴の趣旨に対する答弁)

主文同旨

第二主張

当事者双方の主張は、次に付加するほかは、原判決の事実欄の第二ないし第六(原判決二枚目表七行目から一九枚目裏七行目まで)と同一であるから、これを引用する。

(控訴人らの当審における主張)

被控訴人組合規約第一一条により代議員は各分会を選出単位として選出されることが定められているのに、被控訴人第九回定期大会の代議員は各分会を更に細分化した選出単位から選出されており、少数意見が反映しにくい小選挙区制となつているが、これは右第一一条に違反しているから、右組合大会で決定された本件除名処分は無効である。

第三証拠<省略>

理由

一  控訴人らが昭和四八年五月二九日当時いずれも被控訴人の組合員であり、控訴人宮本が執行委員・青年部部長、控訴人植松が青年部副部長の任にあつたこと及び控訴人らが同日開催された被控訴人第九回定期大会において本件除名処分を受けたことは、当事者間に争いがない。そこで、本件除名処分が違法ないし無効であるかについて判断する。

二  先ず手続面からみた本件除名処分の効力及び違法性の有無について検討する。

被控訴人が大蔵省関税局に属する税関事務一般を取扱う東京税関に勤務する職員によつて組織された労働組合であることは、当事者間に争いがなく、成立に争いない乙第二〇号証によれば、被控訴人の組合規約(正確には東京税関労働組合規約、以下単に規約と略称する。)第二八条は「組合員であつて、この組合の規定に違反しまたは組合の統制を乱し、若しくは組合の名誉を汚したものは、大会の決議により権利の停止又は除名することができる。2 (省略)3 前二項の制裁はすべて大会又は大会が指定する委員会において提案者に制裁勧告書を提出せしめ、かつ、それに対して本人の弁明を十分に聴取した上でなければ、これを決議してはならない。」と定めていることが認められる。そして、原審証人小泉泰則の証言により成立を認めうる乙第一七号証、成立に争いない乙第一八号証の一、二、原審証人稲森増多及び同小泉泰則の各証言によれば、昭和四八年五月二九日の被控訴人第九回定期大会において、控訴人植松については原判決の事実欄の第四の二の1の(一)、(二)(原判決八枚目表九行目から同裏七行目まで)と、控訴人宮本については原判決の事実欄の第四の二の2の(一)、(二)(原判決九枚目表二行目から一〇枚目表九行目まで。但し、同九枚目裏七行目の「右」の次に「と幾分内容を変えた」を加え、一〇行目の「に掲載」を「として提案」に改める。)といずれも同趣旨の事実を処分理由とし、これらの事実は右第二八条の「組合の統制を乱したもの」にあたり、控訴人両名を除名処分にすべきであるとの提案がなされ、右同趣旨の制裁勧告書(乙第一八号証の二)が提出され、控訴人らの弁明がなされたことが認められ、弁論の全趣旨によれば、原判決の事実欄の第四の三の2の(一)、(二)(原判決一二枚目表初行から一三枚目裏八行目まで)のとおりの経過で本件除名処分が決定されたことが認められる。なお、被控訴人は、除名原因として控訴人宮本については原判決の事実欄の第四の二の2の(三)(原判決一〇枚目表一〇行目から同裏九行目まで)の事実をも主張しているが、右事実は右に認定したとおり被控訴人第九回定期大会における処分理由には含まれていないので、右主張についての判断は暫く措くこととする。

控訴人らは、被控訴人が本件除名処分を正当化するため、大会前に教宣活動を活発に行ない、組合員が反対の意思を表明することができないよう世論操作を行ない、控訴人らの弁明の機会及び方法を極めて制限し、除名につき公正の手続をふんでいないから、本件除名処分は無効であると主張する。しかし、被控訴人(執行部)が控訴人らに対する除名処分を正当化するために大会前に教宣活動を活発に行なつたとしても、重要な事項について組合員を誤つた方向に導くような虚偽の情報を提供するなど不正な手段を用いる等特段の事情のない限り、一般に被控訴人の教宣活動が活発に行なわれたからとて、本件除名処分が無効・違法になるということはできないところ、後に認定するところからは被控訴人が教宣活動において組合員を誤つた方向に導くような虚偽の情報を提供するなど不正な手段を用いた等特段の事情を認めることはできない。そして、既に認定したとおり控訴人らは被控訴人第九回定期大会において本件除名処分について弁解をしており、右弁解が控訴人らの意見を実質的に表明できない程の短時間に制限されていたと認めるべき証拠はない。従つて、控訴人らの右主張を採用することはできない。また、控訴人らは、規約第一一条により代議員は各分会を選出単位として選出されることが定められているのに、第九回定期大会の代議員は各分会を更に細分した選出単位により選出されていて、右第一一条に違反しているから、右組合大会で決定された本件除名処分は無効であると主張し、前記乙第二〇号証及び当審における控訴人ら各本人尋問の結果によれば、右主張にかかる事実が認められる。しかし、成立に争いない乙第六八ないし第七一号証によれば、第九回定期大会だけでなく、少なくとも昭和四五年の第六回定期大会以降代議員は同様の選出単位で選出されるのを例としてきたことが認められるので、この間において代議員の選挙方法は右の如く変更されたことが公認されるに至つたものと認めるのを相当とする。従つて、控訴人らの右主張を採用することはできない。

そうとすれば、本件除名処分は少くともその決定手続においては無効ないし違法な点はないというべきである。

三  次に、実体面からみた本件除名処分の効力及び違法性の有無について検討する。

労働組合がその組合員に対して統制権を行使することは、労働組合の団結権を確保するために必要であり、かつ、合理的な範囲内においては、労働者の団結権保障の一環として、憲法二八条の精神に由来するものであるといえる(最高裁判所大法廷昭和四三年一二月四日判決・刑集二二巻一三号一四二五頁)。そして、この労働組合の統制権は、労働組合の特質上他の任意団体に比して強力でなければならないことも否定できない。

控訴人らは、労働組合の統制権の対象は使用者との関係において労働組合の団結力を破壊するような行為であつて、しかも団結権侵害の実害発生又はその蓋然性のある場合に限られるべきであり、被控訴人らが除名原因として主張する事実は労働組合の統制権の対象にならないと主張する。確かに、労働者が団結して労働組合を組織するのは、労働者の経済的地位の向上を図るため労働者が使用者と対等の立場で交渉することを可能にするためであるから、使用者との関係において組合の団結力を破壊するような行為があれば、これを労働組合の統制権の対象とすることのできることは勿論であるが、要は、労働者が使用者と対等の立場で交渉することを可能にするために労働組合における強固な団結を維持することにあるから、このような目的を達成するため、使用者との関係においてでなく、当該労働組合と対立する他の労働組合との関係において当該労働組合の団結を弱体化ないし破壊し、又はそのおそれがある行為も排除することが必要であり、労働組合の統制権の対象となるというべきである。従つて、控訴人らの右主張は失当である。

また、控訴人らは、労働組合は使用者との関係において組合本来の活動を展開することを阻害するような行為に対してでなければ統制力を及ぼすことはできないところ、被控訴人が除名原因として主張する控訴人らの行為については、それによつて使用者との関係において被控訴人の本来の活動を展開することが阻害されるような事情は全く存在していなかつたので、これを統制権の対象とすることは許されないと主張する。しかし、先に述べたように、労働組合の団結を弱体化ないし破壊し、又はそのおそれがある行為は労働組合の統制権の対象となると解すべきであり、使用者との関係において被控訴人の活動が具体的に阻害された場合に限定すべきものではないので、控訴人らの右主張も失当である。なお、規約第二八条の「組合の統制を乱したもの」を控訴人ら主張のように限定して解釈すべき根拠もない。

次に、控訴人らは、基礎科研修に参加した者が法律上未払の超過勤務手当・日額旅費を請求する権利を有していて、右権利を行使しその実現をめざして行動することは市民的権利の行使として制約を受けるべきいわれはなく、右権利を有する者達が共同してその法的根拠を研究し、それを広く普及宣伝し、要求実現をめざす行動組織を作ることは学問の自由・表現の自由・集会結社の自由として自由であるから、昭和四七年一〇月二五日の学習会の開催及び三四万円とる会への参加並びにそこでの行動を統制権の対象とすることは、右市民的権利や自由を不当に制限するものであり、許されないと主張する。しかし、団体の構成員の右のような研究・表現・集会結社が団体の秩序に影響を与える場合に、当該団体が秩序維持に必要な最小限度の範囲で右研究や表現や集会結社をしたことを対象として制裁を加えることは、その団体が前記のような目的をもち、かつその目的達成のため統制権を有する労働組合である以上、ある程度やむをえないところであり、組合員は労働組合に加入するに際して労働組合の秩序維持に必要な範囲で組合員固有の右各自由に制約が加えられることを承諾したと解することもできるのである。しかも、控訴人らが右のような自由に制約を加えられることを嫌うならば、被控訴人から脱退することが認められているのである。後に認定するとおり右学習会及び三四万円とる会は被控訴人の内部秩序(団結)に影響を与えるものであり、これらに参加することは被控訴人の組合の統制を乱したものにあたり、このことを理由とする除名処分が控訴人らの右各自由を侵害するから違法になるとはいえない。また、右市民的権利の行使についても、右各自由について述べたところと同じであつて、本件除名処分が右市民的権利の行使に制約を加えるものであるから違法になるとはいえない。従つて、控訴人らの右主張は採用できない。

更に、控訴人らは、統制権の行使は労働組合の日常的運営が組合員の要求を充分にとりあげ、かつ、全員参加の原理のもとに展開され、組合員の利益を擁護し、その実現のための闘争力の強化のために活用されている限りにおいて正当性を有するところ、被控訴人の日常的運営はかかる原理に背いているので統制権の行使は許されないと主張する。この主張はその内容が必ずしも明らかでないが、労働組合が本来の目的を逸脱して他の目的のためだけに運営されている場合、労働組合が事実上活動していない場合、労働組合の組織が混乱して統一的な運営ができない場合等労働組合がその実体を備えなくなつた場合には、労働組合は統制権の行使を許されなくなることもありうると解すべきであろうが、被控訴人は後に認定するとおり右の各場合のように労働組合の実体を備えなくなつたということはできず、被控訴人の日常的運営が控訴人ら主張のような原理に背いているとは認められない。従つて、控訴人らの右主張は採用できない。また、控訴人らは、控訴人らの行動は、被控訴人が本来追求すべき労働者の権利の擁護に動こうとしなかつたため、やむをえず行なつたもので、組合本来の目的に合致し、実質的に団結権の強化の役割を果したものであり、これにより被控訴人の団結が実質的に阻害されたことはないので、控訴人らの行動を統制権の対象とすることは許されないとも主張する。しかし、いかなる行動が組合本来の目的に合致し団結権の強化の役割を果すかは、一般に被控訴人の自主的判断に委ねるべきことであり、後に認定するところからは、控訴人らの行動が被控訴人の本来の目的に合致して実質的に団結権の強化の役割を果したとはいえないし、民主的な討議を経たうえで組合の意思が決定されたのちにおいては、その実施を妨げるような行為が統制の対象とされても仕方がない。従つて、控訴人らの右主張も採用できない。

以上のとおり被控訴人が除名原因として主張する事実に対し被控訴人の統制権が及ばないとする控訴人らの主張は、いずれも採用することができない。

ところで、労働組合が統制権を行使して組合員に制裁を加える際は、当該組合員について制裁事由の存在が認められる以上、いかなる内容の制裁を選択して当該組合員を処分すべきかは原則として労働組合が自主的に判断すべきものであるといえる。ただ制裁の種類の選択が著しく妥当性を欠き、右制裁処分を維持することが社会通念に照らして相当でない場合は、右制裁処分は統制権の濫用であつて、その効力を有せず違法なものとなると解すべきである。

そこで、先ず控訴人らについて制裁事由が存在したかについて判断する。

被控訴人と全税関労組との関係、基礎科研修制度とこれをめぐる動き、学習会と三四万円とる会、被控訴人の対応、昭和四八年四月七日開催の青年部大会、全税関労組東京支部青年部長からの要請書に対する回答、控訴人らの除名についての事実認定は、次に付加、訂正するほかは、原判決の理由欄の第二の一の1ないし7(原判決二三枚目裏初行から五七枚目表八行目まで)と同一であるから、これを引用する。なお、以下に掲記したものを除き当審における証拠調の結果で右認定を覆えすに足りるものはない。

1  原判決二四枚目表初行の「ことができ、」の次に「当審証人大槻房雄の供述及び右により成立を認めうる甲第一一一号証の記載は右認定に供した証拠に照らして措信できず、他に」を加える。

2  同三〇枚目表七行目の「掃事」二個所をいずれも「掃除」に、末行の「届け出で」を「届け出て」にそれぞれ改める。

3  同三二枚目裏四行目の「政務事官」を「政務次官」に改める。

4  同三七枚目表初行の「右会場は」の次に「控訴人植松の依頼により」を加え、二行目の「の名義で」を「によつて」に改め、八行目の「実行委員」の次に「(控訴人植松を含む。)」を加え、一〇行目の「代表者」を「代表である前記実行委員」に改める。

5  同三八枚目裏末行の「原告植松」から三九枚目裏初行末尾までを「控訴人らは三四万円とる会の会員となり、会の活動に参加した。」に改める。

6  同三九枚目裏二、三行目の「原告宮本佑二、同植松隆行」を「原審及び当審における被控訴人ら」に改める。

7  同四八枚目表五行目の「第六五号証の一、二」の次に「、乙第七二号証」を加える。

8  同五〇枚目裏八行目の「再に」を「更に」に改め、同行の「否決し、」の次に「全税関労組ないし」を加える。

9  同五三枚目表一、二行目の「思いまいます」を「思います」に改め、同裏七行目の「成立に争のない」の次に「甲第八六号証、」を加える。

10  同五四枚目表一、二行目の「原告宮本佑二、同植松隆行」を「原審及び当審における控訴人ら」に、四行目の「被告組合」から一〇行目の「あるので」までを「青年部は、正式には「東京税関労働組合青年部」と称し、被控訴人本部内に本部を置き、被控訴人の組合員のうち満二七歳以下の男女を部員とする被控訴人の組織内の組織であり、被控訴人は、青年層の自主的な活動を尊重する意味で、青年部に規約等を設けて自主的運営をさせているが、あくまでも青年部は被控訴人の下部組織であるから」にそれぞれ改める。

11  同五五枚目裏九、一〇行目の「当事者間に争いがなく、右争のない」を「弁論の全趣旨により認めることができ、右認定の」に改める。

12  同五六枚目裏末行目の「掲載しする」を「掲載する」に改める。

以上認定した事実に基づき、それが控訴人らに対する制裁事由にあたるかについて検討する。控訴人植松については、以上認定した事実と原判決の事実欄の第四の二の1の(一)、(二)の処分理由とを対比すると、右処分理由のうち、(イ) 昭和四七年一〇月二五日開催の学習会は全税関労組が事実上中心となつて主催したもので、全税関労組が被控訴人切り崩しのため巧妙に仕組んだものであること、(ロ) 控訴人植松は右学習会が右のような組織、目的をもつものであることを熟知していたこと、(ハ) 控訴人植松は右学習会を通じ全税関労組の書記長、青年部長ら役員と親交を結び、共同歩調をとる行動をとつたこと、(ニ) 控訴人植松の右学習会への参加は共闘行為であること、以上四点以外の事実の存することは明白である。のみならず、右四点についても、既に認定したところからすると、昭和四七年一〇月二五日開催の学習会に先行して同月一六日主題、会場を同じくする学習会が開催されたが、右一六日の学習会は全税関労組が同年五月に発足させた「基礎科研修民主化委員会」の呼びかけで開催されたもので、講師は両学習会とも全税関労組の中田書記長であり、二五日の学習会の会場は控訴人植松の依頼により全税関労組東京支部青年部長の国井克宏によつて借用されており、二五日の学習会に全税関労組員が四名位参加しているので、二五日の学習会が全税関労組の影響下に開催されたとみられてもやむをえないところであり、また、右学習会の開催に関しては控訴人植松は全税関労組の中田書記長及び国井東京支部青年部長と協力関係にあつて共同して行動したことは明らかであり、控訴人植松が右学習会が右認定のような性格であることを知らずにその開催を計画したとは考えられないから、大筋において右四点に符合する事実の存在を肯認することができる。なお、控訴人らは、共闘原則は組合と組合との関係を規律するものであるところ、控訴人植松の行動は個人としての行動であるから、共闘原則に違反しないと主張しているが、共闘原則は、それが決定された経緯及び被控訴人と全税関労組との関係を考えると、全税関労組が直接又は間接に設定した行動について被控訴人の組合員が参加ないし共同行動をすることを禁ずる趣旨を含むと解すべきであるから、控訴人らの右主張は採用できない。従つて、控訴人植松の以上認定した行為は、共闘原則に反するものであつて、正規の手続を経て決定された労働組合の運動方針に反する分派行動であり、被控訴人の統制権の対象となるものである。次に、控訴人宮本については、前記認定した事実と原判決の事実欄の第四の二の2の(一)、(二)の処分理由とを対比すると、右処分理由のうち、(ホ) 三四万円とる会は事実上全税関労組の被控訴人切り崩しのための橋頭堡たる性格をもつていたこと、(ヘ) 控訴人宮本は昭和四八年四月七日開催の被控訴人青年部大会において、書記長の住谷恒夫をして全税関労組との交流についての運動方針を口頭で提案させ、控訴人植松をして組合員に対し全税関労組との関係について討議を呼びかけさせたこと、(ト) 控訴人宮本は被控訴人青年部を全税関労組との共闘にまき込もうとしたこと、以上三点以外の事実の存することは明白である。そして、右三点についても、既に認定したところからすると、次のとおりそれぞれこれに該当する事実を認めることができる。すなわち、昭和四七年一〇月二五日開催の学習会において次回の学習会の実行委員が選ばれ、右実行委員の呼びかけにより同年一一月一日学習会が開催され、右学習会の参加者約七〇名中に数名の全税関労組の組合員が含まれていたが、右学習会において発足が決められたのが三四万円とる会であり、同月九日開催された三四万円とる会の集会の参加者約七〇名中に七名位の全税関労組の組合員が含まれ、三四万円とる会の会員は多いときには約一三〇名で、その中に約一〇名の全税関労組の組合員が含まれていたので、二五日の学習会が全税関労組の影響下に開催されたことを考慮すれば、三四万円とる会も全税関労組の影響下にあつたとみるのが自然であり、ひいては右(ホ)の事実の存在が推認される。右青年部大会においては、住谷恒夫は青年部書記長、控訴人植松は青年部副部長であつて、青年部部長の控訴人宮本とともに青年部の執行部を構成しており、住谷恒夫と控訴人植松が控訴人宮本と意思統一をはかつたうえそれぞれ提案及び討議の呼びかけをしたとみられてもやむをえないところであり、右(ヘ)の事実の存在が推認される。また、右青年部大会において、昭和四八年三月一五日開催の被控訴人執行委員会が共闘原則に抵触するとして運動方針案から削除を命じた「全税関青年部との関係」とほぼ同内容の「全税関労組との関係について」が運動方針の修正案として提案され、右のように運動方針が修正可決されたが、右修正は共闘原則に反するものであり、これと右(ホ)、(ヘ)の事実とを総合すれば、右(ト)の事実の存在が推認される。なお、控訴人らは、控訴人宮本が右青年部大会において全税関労組との共闘について討議を認めたことは、要求が一致し要求が前進する見通しがある場合にはその時点で検討を加えるとして全税関労組との共闘もありうることを示唆した共闘原則にそうものであつて、これに違反するものではないと主張するが、共闘原則は組合員の大多数が賛成しその他の条件が充たされれば、全税関労組とは当面共闘しないとの方針を再検討することを定めているだけであつて、組合員の大多数が右再検討をすることに賛成していると認めるべき証拠もなく、被控訴人執行委員会が運動方針案中の「全税関青年部との関係」を共闘原則に抵触するとして削除を命じているので、控訴人らの右主張は、独自の解釈といわざるをえず、採用することはできない。控訴人宮本の以上認定した行為は、共闘原則に反し、被控訴人執行部の指令に反するものであつて、このような分派活動や組合執行部の発した正当な指令に対する違反行為は被控訴人の統制権の対象になるものである。してみれば、控訴人植松については原判決の事実欄の第四の二の1の(一)、(二)の事実の存在が認められ、控訴人宮本については同第四の二の2の(一)、(二)の事実の存在が認められ、いずれも規約第二八条の「組合の統制を乱したもの」に該当することは明らかである。

控訴人らの行為が規約第二八条の「組合の統制を乱したもの」に該当するとして、被控訴人が除名処分を選択したことが著しく妥当性を欠くかどうかを検討する。前記認定した事実により、昭和四七年一〇月二五日開催の学習会及び三四万円とる会が全税関労組の影響下にあるとの立場を前提にすれば、控訴人らが右学習会ないし三四万円とる会に参加することは、被控訴人に対する分派活動であつて、控訴人宮本が被控訴人の執行委員・青年部部長、控訴人植松が青年部副部長であるから、その行動の影響力は被控訴人内部、特に青年部において大きなものであり、しかも、控訴人宮本は昭和四八年四月七日開催の被控訴人青年部大会において組織決定を無視して全税関労組との交流を議題にし、控訴人植松は右学習会を計画し、それから三四万円とる会に発展したのであつたから、控訴人らの行為は被控訴人の組織破壊(被控訴人からの組合員の脱退ないし全税関労組への加入替え)につながるおそれがあると判断すべきものである。被控訴人の規約に基づく制裁には権利の停止処分と除名処分があり、除名処分によるときは組合(被控訴人)から追放されるので、除名処分は重大な統制違反に限つて選択されるべきものと解されるが、右解釈を前提としても、被控訴人が控訴人らに対し除名処分をもつて臨んだことに著しく妥当性を欠くところはないというべきである。以上のとおり本件除名処分は、統制権の濫用とみることはできない。

四  そうすれば、本件除名処分に無効ないし違法な点が認められないので、控訴人らの本訴請求は、その余について判断するまでもなく失当であり、棄却すべきである。よつて、これと趣旨を同じくする原判決は相当であるから、本件控訴は理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木重信 加茂紀久男 大島崇志)

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